アニメの円盤がどんどん売れなくなっている。昔からどんどこ売れるような商品ではなかったが、最近はその枚数がさらに減少している。もっと具体的に言えば、最上位のアニメの売上は変わらない。むしろ増加している感じすらある。しかし、中層から下層のアニメのBDDVDは本当に売れなくなっている。
例えば例を出すと2018春アニメの一巻BD売上は1万本を超えているのが、グランブルーファンタジーの特典シリアルコードを付けてドーピングした「ウマ娘」のみ。3,000本以上を超えたのが「ペルソナ5」「銀英伝」「ガンゲイルオンライン」「僕のヒーローアカデミア3期」の4本のみ。加えて、かろうじて1,000本を超えたのが「こみっくがーるず」など、7本という有様である。
「キルミーベイベー」が686枚しか売れなかったことを煽ったり、「フラクタル」の883枚を馬鹿にしたり、「まなびストレート!」の2,899枚をまなびラインと称して最低限度の売上だと言っていた時代が遥か過去のような惨憺たる売上になっている。そして、そのような文化を作ってきた通称「売りスレ」も存亡の危機に瀕している。
このブログでも声優の爆死率を計算する際に過去のアニメもあるので3,000枚と1,000枚を基準にしたものを計算したが、最近の声優はもう1,000枚売れるアニメに出れれば十分すごいと言ってもいい。真の爆死率の計算には、そのクールの平均売上の偏差値を使わないとダメだろう。
では、なぜアニメの円盤が売れなくなったのか、その理由を考えるとともに、これからのアニメ業界について考えていきたい*1。
アニメの円盤が売れなくなった理由を考える
まず何はともあれアニメの本数の増加が考えられる。うずらインフォ様のデータを使用して、2011年から2018年までの各クールに開始したアニメの本数をグラフにしてみた。なおBDが発売される率が低いショートアニメなどは、数に加えていない。
2011年からのデータだが、明らかにアニメ本数が増えてきている。基本的に春と秋の方がアニメ本数が多くなる。これは色々な理由があるが、この期間に2クール以上のアニメが始まることが多いからというのもある。
年間の本数では2011年には約125本だったのに、2018年は250本を超え、約2倍となっている。昔はアニメは3話まで見て切るかどうか決めると言われたが、最近は1話切り、もしくは全く見ない0話切りをしている人が多いのではと思う。200本も3話まで見てられない。
アニメが増えても円盤を買うオタクの数は増えないのだから、当然1作あたりの売上は少なくなる。さらに最近はSNSやまとめサイトの発達で、人気のあるアニメにオタクが群がるという現象が起きやすい。これがトップ層の売上は変わらないが、その他のアニメの売上が減少していく理由であろう。仲間はずれを極端に嫌う性質がアニメの売上にも影響を及ぼしていると考えられる。ただし、そもそも円盤の総売上も減少傾向だというデータもあり、アニメ数の増加により分散されたという説は全てを説明できていない。
このアニメ数の増加に対しては、色々なことを考察されている個人ブログがいくつかある。「収益化の方法が増えたこと」や「1クールアニメが増えたこと」を理由に挙げているブログもあるが、私は、大きいのはTOKYO MXがアニメに本腰を入れたせいではないかと思っている。
結果的にテレビ会社として良い方向に向かったと思います。2006年前後でした。この頃からアニメの取り組みを開始して、MXで『涼宮ハルヒの憂鬱』(2006年)『地獄少女』(2005年)といったヒット作品が生まれてアニメ業界全体がMXを知るきっかけになったと思います。その後も『ミルキィホームズ』(2010年)『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)、『ガールズ&パンツァー』(2012年)といったヒットアニメも生まれました。
2011年7月の完全地デジ化とスカイツリーからの電波発信もMXにとっては大きなフォローになりました。MXの存在にいち早く動いて頂いたのがアニプレックスの夏目さんやブシロードの木谷さん、バンダイビジュアルの上山さんでした。営業活動を重ねていくことで横のつながりにも発展し、スタジオぴえろの本間さんやニトロプラスの小坂さん、グッドスマイルカンパニーの安藝さんが後押ししてくれるようになりました。各社が大切に大事に制作したアニメ作品を披露する場所の一つにMX を選んでもらえるようになったということです。
さらにはマーケティング戦略として、CMを打つよりもアニメを放送した方が効率がいいのが分かってきたというのもあると思う。声優サイドにとってもアニメが増えるのは収入が増えるのでWinWinになる。
これだけアニメを作れるリソースがどこから来るのかというのも疑問だが、資金面では中国含む外資系の配信サイト(bilibili動画やNetflix)のおかげで、ある程度賄えることができるようだ。しかし問題は人材面だろう。一人負け状態で可哀想なのは、実際にアニメを作っているアニメーターたちで、低賃金で奴隷のようにこき使われる羽目になっている。
このクリエーター部分の権利が蔑ろにされているのは、制作会社が二次利用できない「製作委員会方式」のデメリットでもある。これは「けものフレンズ問題」でも浮き彫りになった。製作委員会方式にはリスク分散ができるなどのメリットもあり、アニメ本数が急激に増加してきた一因でもあるが、そのアニメ業界の歪な構造がここに来てアニメ離れを引き起こしているような気がしないでもない。
最近は、福原慶匡の「パートナーシップ方式」や糸曽賢志の「ライセンス方式」など、製作委員会方式にとらわれないアニメ製作も進んでいるようだが、まだ主流にはなっていない。