声優はかわいい。不変の真理であり、いかなる物理法則が支配する世界であっても正しく成り立つ。では、なぜ声優はかわいいのか?これは世界の深淵に迫る窮極的な質問だろう。万物の理論が完成しても解き明かされない謎かもしれない。
しかし冷静に客観視して見てほしい。女優やアイドルに比べて本当に可愛いだろうか?タブーに触れる恐れがあるのであまり言えないが、声優オタクではない世間の人に聞いたらアイドルや女優の方が可愛いと答えるのが多数派になるだろうと推測される。男性声優に対しても同様で、俳優やアイドルの方が世間的にはイケメンだと思われているはずだ*1。自身も声優である明坂聡美も同様のことを言っている。
声優補正というやつですね。実際は可愛くないのに可愛く見えてしまうんです。対処法としては、普通のファッション雑誌と私の写真を見比べましょう。たちまち補正は取れてしまいます。
漫画家の押切蓮介も声優オタクの声優補正に対して以下のようなイラストを描いている。
声優は本当はブスなのに、声優汁を吹きかけられた声優は可愛くなると言っているのだろう。ではここでいう声優汁とはなんなのか?もっと一般的に言えば声優補正とはなんなのだろうか。
声優補正とは何か?
二次元キャラクターとの同一視
まず考えられるのは声優と二次元キャラクターの同一視だ。二次元キャラクターというのは言わば理想的な女性(男性)像であり、それを声優が演じているから声優もそのキャラクターのような可愛さ、かっこよさを見出してしまう。実際は役を演じていても、その人の内面が全く滲み出ないということはあり得ないので、二次元キャラから中の人の推量するのは無理ではないかもしれないが、やっぱり全く違う存在だということは多いだろう。
悪役を多く演じている俳優は、性格も悪いと思われて批判の手紙やら電話が多く来るというのがこれに似たような事例だろうか。素敵な男性や女性役を演じた俳優や声優が何かスキャンダルを起こすと、こういう人じゃないと思ってたのにと幻滅するのも同じである。このメカニズムは学習院大学の内藤の論文にも記載がある。その論文では、「海のトリトン」でトリトンを演じた塩屋翼を例に挙げている。
声が良いと容姿がよく見える
声優は声を出す職業であり、当然みんな声が良い。声が良いというのは元来の声質もそうだが、声のトーン、滑舌や聞き取りやすさなども関係している。声優は養成所などでみっちりと声を良くする訓練をしているのだから、声に関してはプロフェッショナルといっても良い。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のアルバート・メラビアンは好意や反感を伝えるときには声が良い方がより伝わりやすいという研究結果を発表している。それによると「好意の合計 = 言語による好意7% + 声による好意38% + 表情による好意55%」であり、声のトーンなどがメッセージの伝達に占める割合は38%であるという(メラビアンの法則)。
メラビアンはこれを一般的なコミュニケーションに敷衍してはいけないとしているが、実際は一般的なコミュニケーションでも同じだろう。ボソボソ喋っている人よりもハキハキ喋っている人の方が好感がもてるし、それが自分にとって心地良い声であれば尚更その人のことを好ましく思う。一度好きになったら、容姿も可愛く見えて然るべきだ。プレゼンテーションなどでボソボソ喋ってる人は、質疑応答で袋叩きにあう確率が高いなと思っていたが、広義のメラビアンの法則が関係していると思っている。
声優の素人っぽさ
声優の素人っぽさも一つの要因ではないかと思う。アイドルや女優は芸能界に擦れすぎていて垢抜けている。一方で、声優は芸能界に所属しているもののメインストリームからは一歩離れた場所におり、強い親近感が湧く。この親近感が声優を好意の対象にするだろうというのは想像に難くない。いわゆるポンコツが好まれるのも同じメカニズムに依るものだろう。
AKB48も今では芸能人!という感じだが最初は小さな劇場で「会いに行けるアイドル」をコンセプトに始まった。そこにはアイドルに対して親近感を感じさせる秋元康の狙いがあっただろうし、私の世代ではないが「おニャン子クラブ」もアイドルの聖域性をぶっ壊して人気になった。言おうかどうか迷ったが、「素人もの」というジャンルが存在するのもそういう嗜好を持つ人が多いというのを証明している。私も好き。
判官贔屓
声優はかわいいのにもかかわらず、しばしばいろんな掲示板で声優ファンでない人たち、または声優ファンだけど「俺はお前らとは違うまともなファンだ」と思っている人たちが、声優はブスだと言っている。しかしそう言われると逆にいや声優はかわいいんだよと思い込みたくなる。叩かれている誰かを応援したくなるのは一種の判官贔屓だと思う。
先日デューク大学の研究グループが、SNSで自らの立場と異なる意見に継続的に触れても、その対立意見を受け入れず、むしろ自分の意見に固執する傾向にあるという結果を発表した。これの類型と考えられる。かわいいと思っていたものに対して可愛くないと言われたら、自分の意見に凝り固まってよりかわいいと思ってしまう。
ファン心理と自己愛性パーソナリティ
最後はファン心理と自己愛性パーソナリティの関係で、福岡県立大学の上野は、流行を取り入れる動機は個性を示したい気持ちだとしている。個性を示すのは 他人に差をつけたい欲求があり、自分の感覚の鋭さに自分は人よりもすぐれているという優越感を持とうとすることだと述べている。
これは自己愛性パーソナリティの一種で、それとファン心理を結び付けているわけだが、声優ファンに対しても当てはまるだろう。声優の場合はアイドルや俳優よりも知名度が低いから、私が彼(彼女)を見出したという優越感を強く抱きやすい。また「自分は人よりも優れている優越感を持ちたいという欲求」は判官贔屓の項ともリンクする。声優をブスだと言う人は自分には声豚には見えていない現実が見えているとし、声優はかわいいと言う人は他の人が見出せない可愛さを自分だけが見出していると優越感を抱くことができる。
まとめ
色々考えてみたが、客観視してみても可愛い(かっこいい)声優というのは最近は山ほどいる。実際容姿がある程度整ってないと、声優としてもなかなか活躍できなくなっているので、当然の流れであろう。現在は元アイドルや元舞台女優が声優に転向するというパターンも増えている。
*1:ただし女性の声優ファンはイケメンだからという理由で声優を応援している人は少ないと思っている。女性は容姿以外を重視するというのは固定観念かもしれないが。