このブログの記事の作成のために色々と声優のCD売上を調べているうちに、CDの初週売上と累計売上の比が気になった。初週売上の割合が累計売上に対して大きいということは、発売日初週にCDを買っているファンが多いということなので、それだけファンが熱狂的だということだろう。一方、逆に初週売上の割合が低い場合は、いわゆるジワ売れ型でありファンの数というよりも楽曲の良さで売れているのではないかと考えられる。
声優業界ではないが、例を出すとAKB48のようなAKB系列のCD売上は初週売上の割合が90%以上と極めて高い。これは握手券や投票券を劇場版(初回限定版)につけて売っているからであり、初週以外にCDを買う価値がほとんどないためである。これは声優業界にも当てはまるのではないかと思う。イベントをエサにしてCDを売っている声優は初週売上の割合が高くなり、そうでない声優は低くなるのではないか?
初週売上と累計売上の比 (Total sales) / (First week sales) をセールス比と呼ぶことにする。では様々な声優のセールス比を調べてみたい。
調査方法
今回は24人の女性声優についてのシングル、アルバムCDの売上を調査した。
調べた声優は、茅原実里、悠木碧、花澤香菜、小松未可子、堀江由衣、坂本真綾、夏川椎菜、水瀬いのり、寿美菜子、戸松遥、田村ゆかり、田所あずさ、麻倉もも、雨宮天、内田真礼、喜多村英梨、三森すずこ、大橋彩香、水樹奈々、豊崎愛生、高垣彩陽、上坂すみれ、竹達彩奈、内田彩である。全て個人名義のものに限っており、アニメキャラクター名義のいわゆるキャラソンは含んでいない。またグループでの売上も含まない。全てのデータはアニソンCD売上データ保管庫様のものを使用している。
調査の問題点について
今回はタイアップと非タイアップを考慮していない。タイアップありのほうが楽曲の露出回数が圧倒的に増えるのでセールス比は大きくなると考えられるのだが、タイアップの種類によっても売上は変動するので、意図的な操作を除くために一緒くたにして調べることにした。またタイアップがあろうが楽曲が良くないとやっぱりCDは買われないと思うので、セールス比が高いイコール楽曲が良いは間違いではないと思う。
また初週売上が少なすぎると2週目にそもそも売上が出ない可能性が高い。この場合はセールス比が1となってしまう。今回の調査対象にもそのようなCDは存在するのだが、できるだけCD売上の多い女性声優を選んだので擾乱は少ないと考えられる。またオリコンに載らないところでロングテールで売り上げている可能性も考えられるが調べられないので無視する。
全声優をまとめたセールス比
Fig.1は、24人の声優の全シングルとアルバムに対して横軸に初週売上、縦軸に累計売上をプロットしたグラフである。点線は最小二乗法により求めた近似曲線であり、傾きがセールス比を示している。
R2=0.91で傾きが1.47と求められた。正直、プロットするまではこんな綺麗な線形になるとは思っていなかった。意味するところは、女性声優のCD売上においては、初週売上の1.47倍が累計売上になるということである。
ただ、一部に大きく外れ値が存在するため、全CDのセールス比の中央値も計算しておく。中央値は1.34となった。初週売上の1.34倍が累計売上となり、こちらの方が感覚に近いのではないかと思う。
ジワ売れしている声優とCD
さて外れ値という話題が出たが、ではその外れ値は何かを見ていく。Fig.2はFig.1のグラフを声優別に色分けしたものである。
色が多すぎて、なんのこっちゃ分からんグラフになっているが明らかなことがある。濃い青の点が明らかに直線よりも上に位置しているということである。
この濃い青の声優は誰かと言えば坂本真綾である。
坂本真綾のセールス比が高くなるのはいくつか理由がある。まずはほとんどの楽曲がタイアップということである。タイアップは露出が多いのでセールス比が高くなりやすいというのは前述した。また坂本真綾のタイアップ先もかなり人気のある作品ばかりで、アニメ人気がそのままCD売上に繋がっていると推測される。
もう1つはアイドル売りしていないことだろう。ライブイベントが特典などはあるがリリースイベントを複数回実施したりということはない。初回盤を購入しなければならない理由が低くなれば、初週に買わない人も多くなるのでセールス比は低くなる。
坂本真綾の中でも飛び抜けたジワ売れをしているのが、『奇跡の海』である。これは初週6,740枚で累計が66,340枚という驚異的なジワ売れでセールス比9.87を達成している。『ロードス島戦記-英雄騎士伝-』のオープニングテーマで坂本真綾の名前を大きく知らしめることになった代表作の1つである。
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またもう1つ飛び抜けた点は『マクロスF』のオープニングテーマ『トライアングラー』(初週31,270累計91,539)で、こちらは坂本真綾の最高セールスを記録した曲である。
またオレンジの点の水樹奈々も直線の上にあることが多い。この2人は声優というカテゴリーに収まらず歌手としても大活躍しているからさもありなんという感じだ。
各女性声優のセールス比
女性声優ごとのセールス比の平均値を求めたものをFig.3に示す。棒グラフで0から始まってない!ゴミグラフだ!と言われるかもしれないが比は1以下にならないのでご了承ください。(今から思えば累計売上に対する初週売上の割合を出せばよかったなと思っています。機会があったら直します。)
また上下のバーは標準偏差である。ここで標準偏差を持ち出すのは統計的に不正確だと思うが、ばらつきを示す指標として使うことにした。平均値で出すと1つ飛び抜けた値があった場合、平均値を一気に押し上げるが、ばらつきが大きくなる。ばらつきが大きくなる理由にはタイアップの強さが絡んでくると思うから、ばらつきの大きさはタイアップにどれだけ左右されているかの指標になるだろう。もっと言えば、どんな楽曲でも買うという信者が少ないということになる。逆にばらつきが少ないものは、どんな楽曲でも買う信者がたくさんいるということだ。
上位のメンバーを見てみると坂本真綾、水樹奈々、堀江由衣と歌手として活躍する実力派ベテラン声優陣が並んでいる。坂本真綾は『奇跡の海』でのセールス比9.87のためにばらつきが大きくなっているが、それを除いても依然として1位である。
堀江由衣はばらつきも少ないので、タイアップの影響も少ないのにセールス比が高い。これは純粋に楽曲が評価されているのではないかと思う。また田村ゆかりが水樹奈々、堀江由衣よりも若干低いのはやはり彼女のアイドル性にあるだろう。
このメンツに大橋彩香が顔を出している。特に『ワガママMIRROR HEART』は『政宗くんのリベンジ』という大して売れもしていないアニメの主題歌だが、初週売上3,470枚、累計売上7,825枚となっている。楽曲自体も評価が高く、セールス比はそれを反映したものだろう。イベンターのミョーホントゥスケワイパーとかいう意味不明なコールの温床になっているのが気に食わないが。
さて一方、下位を見てみるとミュージックレイン所属の声優ばかりである。名前をあげると夏川椎菜、麻倉もも、寿美菜子、豊崎愛生、雨宮天など。ミュージックレインの特典商法は大変悪どいので、初週売上が高くなるのも当然である。特に夏川椎菜さんはファンが名前にちなんで417枚購入している人もおり、売上を底上げしているので、圧倒的にセールス比が低い。(ただし現在2枚しかシングルCDはリリースされていない。)
また内田彩、竹達彩奈、三森すずこもアイドル売りをしている声優であり、やはり予想した通りにアイドル声優はセールス比が低くなった。
まとめ
- CD売上の初週売上と累計売上の比とアイドル声優度合いには関係がある
- 坂本真綾、水樹奈々、堀江由衣などの実力派声優アーティストは初週売上と累計売上の比が高くなり、楽曲が評価されている証拠になる
- ミュージックレイン所属の声優は、特典商法だけでなくしっかり楽曲を売って欲しい