アニメ『ゲキドル』感想 様々な要素が詰め込まれたアイドルアニメの意欲作

4.5

2021年の冬期アニメもクライマックスを迎えているが、今回は『ゲキドル』というアニメを(ちょっとネタバレはあるけど、これを読んだあとに作品を見ても、面白さを損なわない程度のネタバレで)紹介したい。一応申し訳程度の声優要素はあります。

『ゲキドル』は、放送後少し話題になったこともあって、存在自体は知っている人も結構いるかもしれないが、実際に視聴している人は少ないと思う。それもそのはずで、地上波で放送されたのは第1話だけだからだ。2話以降はBSフジとAT-X、およびdアニメストアなどの配信サイトで放送されている。言い換えれば、無料で観ることのできる手段がなかった(現在はいくつかの配信サイトで期間限定で無料公開されている)。

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5年間日の目を見なかったアニメ

なぜそんなことが起きたかというと、このアニメの成立経緯に理由があると思われる。『ゲキドル』は実は5年前に完成しており、理由は不明だが、今まで日の目を見ることなく寝かされ続けていたのだ。

主演は人気声優の赤尾ひかるが演じているが、実は彼女が事務所に入って最初にアフレコした作品が『ゲキドル』らしい。つまり『こみっくがーるず』のかおす先生よりも前の主演作ということになる。ちなみにデビューまもない小原好美もモブ役で9話に出演している。

5年間お蔵入りだったアニメがなぜ今になって放送されることになったのかは定かではない。コロナ禍で番組の枠を埋めることができず白羽の矢が立ったのか、何かの理由で放送機会が失われてそのままだったのか、真実はわからないが、とにかく放送されることになった。

5年間も放置されていたのなら、どうせつまらないんだろうと思ってしまうが、なかなかどうして面白いアニメだった。しかし、間違いなく人は選ぶ。でも好きな人はめちゃくちゃ好きになるアニメだと思う。では、どんな人になら『ゲキドル』を好きになる可能性があるかというと、とりあえず次の1話と11話のあらすじを見てほしい。

同じアニメのあらすじとは到底思えないのだが、紛れもなく同じ『ゲキドル』である。『ゲキドル』は一応名前の通りアイドルアニメなのだが、後半はSFの要素が色濃くなる。この高低差について行ける人、カオスな展開を楽しめる人は、きっと『ゲキドル』を楽しめる人だと思う。とはいえ、しっちゃかめっちゃかなアニメというわけではない。ちゃんと伏線があるし、終わり方はキレイだ。だけど、期待したものとは全然違ってガッカリという感想になることは大いに有り得るので、そこだけは注意してほしい。

序盤から中盤までの見どころ

最初は、主人公の守野せりあがシアトリカルマテリアルシアターという大劇団の看板女優・雛咲いずみに憧れるところから始まる。せりあは演出家の榊原かをるに誘われ、アリスインシアターに入団。そこは元々いずみが所属していた劇団で、せりあはいずみの元相方だった各務あいりと知り合い、仲を深めていく。

導入は普通のアイドルアニメなのだが、それと同時に作中では「世界同時都市消失」という災害が発生しており、池袋の半分が消滅していることが語られる。さらに謎の「ドール」という機械人形も登場する。普通にアイドルアニメが進行していくのだが、舞台設定が不気味で、何かが起こるのではという不穏な空気がアニメを横溢していて、先がとにかく気になる。声優陣も、赤尾ひかるは新人でも、緊張は感じられたものの全然上手いし流石だなとは思ったけれども、あいり役の持田千妃来は舞台女優だし、声優転向したばかりの元AKB48の佐藤亜美菜も出ているし、演技があまり上手いとは言えない声優もいるのだが、それが逆にアニメの不穏な雰囲気をより一層醸し出している。

2話から3話では、あいりがジュニアアイドルをやっていた過去について語られる。彼女は人気がほしいあまりに、ファンの前で上半身をさらけ出すという醜態まで起こしていた過去の自分を後悔しているのだが、鏡で自分の裸を見たときにフラッシュバックしたのだろう、急に落ち込んだり、別のシーンでは巨大なパフェを食べているときに周りの目線がふと気になって気持ち悪くなったりと、妙に心情描写がリアルで引き込まれる

最近は『鬼滅の刃』に代表されるように、キャラクターの心情をセリフで全部説明してしまうようなアニメが流行っているけど、正直それだけじゃ面白くないと私は思う。やっぱり見る人にとっていくつも解釈があり得るのがアニメだし、物語だと思っているので、見る人にとっていろんな感情や意見を惹起させる『ゲキドル』は得難いアニメだった

4話からは濃密な百合描写が始まる。あいりがせりあを狙うけど、せりあからはそっけない態度を取られ、そこに過去の相棒だったいずみが現れ、修羅場があったり。ここはぜひ百合アニメが好きな人には見てほしい。特に4話で、バスに乗車しようとするせりあの唇とあいりの唇が偶然触れ合い、それをきっかけに気持ちが抑えきれなくなったあいりが本気になって、せりあに無理やりキスをするシーンは最高で、屈指の名シーンだと思う。

これらのエピソードがあるのだが、やはり不気味な雰囲気は続いていて、せりあと「ありす」という謎の少女との関係が明かされたり、ドールがあいりを階段から突き落としたりなど、ミステリーやサスペンスのような空気感も出てくる。リアルタイムで見ているときは、一体このアニメはどこがゴールなのか分からず、困惑しきりだった。そして、その困惑は終盤に向かうにつれてさらに加速していくことになる。

終盤の見どころ、そして結末

終盤からは、いよいよSF色が色濃くなっていく。これまでアクロバットな展開にもついてきていた視聴者も脱落した人が結構いるんじゃないかと思う。BD-BOXが10話放送時あたりに発売されたけど、もしかして10話以降を見ていたら買わなかったという人もいるかもしれない。でも、SFに耐性がある人なら見て損はしないはず。

急に専門用語がどんどこ出てきだして、一回見ただけではさっぱり分からないし、私もまだ全然理解できていないところがいっぱいあるのだけど、視聴したときに話が分かりやすくなるように掻い摘んであらすじを説明すると「過去を改変しようと企むイノヴェイターと、それを阻止しようとするゲイザーがいて、榊原かをるはそのゲイザーの一員だったということが明かされる。ところがひょんなことから、かをるが現在の並行世界(世界の支流)に取り残されてしまう。そんな中で、イノヴェイターが再び暗躍しだす。」という感じだ。

大きなネタバレはしないと約束したので、これ以上のことは書かないけれど、こんなわけのわからない話になっても、最後はキレイに終わる。ここまでの12話で起こったできごと全部がオーバーラップして結末へと至る。そして、このアニメはやっぱり「演劇をするアイドルアニメ」だったんだなと得心できるはずだ。

まあ途中、矛盾してるんじゃないかと思えるような箇所があるし、特に後半は説明不足じゃないかと思えるところも結構あるのだけど、とにかく意欲的な作品で毎週楽しみだった。もし機会があったら、配信サイトなどで騙されたと思って一度見てみてほしい。

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