このブログでも何度か話したことがあるが、私の地元は富山県である。富山はテレビ東京もTOKYO MXも(一部地域ではテレビ朝日すら)映らないオタク不毛の地であるはずにもかかわらず、意外と当時からオタクが多かった。理由はよく分からない。娯楽が少ないから陰キャはオタ趣味に走るのだろうか。
富山出身でサブカルチャーに関わる有名人も意外といる。最も有名なのは藤子・F・不二雄と藤子不二雄Aだろう。同市出身の漫画家としては、最近では『ゆるゆり』のなもりなんかもいたりする。あと『美味しんぼ』の作画担当の花咲アキラも富山県出身だ。
アニメ監督では、『時をかける少女』の細田守やマクロスシリーズの河森正治あたりが特に有名だろうか。
声優はぽつぽついた(谷井あすか、佐土原かおりなど)ものの、これは、という感じの人はこれまで出ていなかったのだが、上田麗奈がかなりブレイクしてくれた。81プロデュースは味を占めたのか、事務所には他にも何人かの富山出身声優がいる(荻野葉月、川原怜奈など)。青木志貴も富山県出身だ。出身声優ではないが、高垣彩陽は富山を第二の故郷と言ってくれている。
そして、富山県にはアニメ制作会社もある。アニメ好きなら誰もがご存知のP.A.WORKSである(以下PAとも)。ところが最近PAは売れてない。品悪く言えば爆死続きである。最新作『白い砂のアクアトープ』も数字が出なかった。
富山出身の者としては、P.A.WORKSにはぜひ復活してほしい。そこで素人ながら、どうすればPAが復活するのかを考えてみたい。
P.A.WORKSの沿革
P.A.WORKSは2000年にproduction IGのプロデューサーであった堀川憲司が富山県南砺市城端(現在の地名)に制作会社を設立したのが始まりである。妻の出身地に戻る際、制作会社がなかったため自分で設立したという。
初期はグロス請けを担当していたが、2008年に『true tears』を制作。前評判こそ高くなかったものの、岡田麿里らしい恋愛少年群像劇がじわじわとウケて、BDBOXが販売されるまでになった。
舞台となった城端は聖地巡礼の地となり、ご当地アニメとしても大きく貢献した。私が過去によく訪れていたファボーレやたこ焼き屋が登場していたので、私にとってもすごく思い出深い作品である。ちなみに、ファボーレは増床して作品に出ていた当時の形ではなくなってしまっている。
その後はしばらく北陸を舞台にしたアニメを手掛ける。金沢の湯涌温泉を舞台とした『花咲くいろは』や、明示されてはいないものの富山県西部が舞台だと考えられる『Another』などがある。
同時に、麻枝准が原作を務めるシリーズも立ち上げる。『Angel Beats!』はP.A.WORKS最大のヒット作のひとつでもあり、今をときめく歌手LiSAのブレイク作でもある。
『花咲くいろは』は温泉旅館のお仕事を扱ったものだが、その後、アニメ制作自体をテーマにしたメタ的お仕事アニメ『SHIROBAKO』がヒットしたことから、お仕事系アニメの制作にも力を入れる。『サクラクエスト』や最新作『白い砂のアクアトープ』などである。
また硬派なオリジナルアニメにも果敢に挑戦しており、『天狼 Sirius the Jaeger』や『Fairy Gone』などがある。しかしながら、いずれにせよ最近のP.A.WORKSは存在感を失っており、初期の頃のヒット作を連発していた頃は影も形もない。
P.A.WORKSが復活するには
P.A.WORKSの強みといえば、よく挙げられるのは美麗な背景美術だろう。初期作品は東地和生が背景美術を手掛けており、深夜アニメにはないクオリティがあったのも確かである。ところが、最近は作画が良いアニメが増えて、背景もこだわっているものが増えてきている。人物の作画も同様である。PAが復活するためには、PAに唯一無二のものがなくてはいけない。
しかし、P.A.WORKSには他のアニメ制作会社にはないものがすでに存在している。それは制作会社が富山県に所在しているということだ。
みなさんは富山(北陸)と聞いて何を思い浮かべるだろうか。魚が美味しいとか景色が綺麗とかポジティブな意見もいっぱい出るだろう。しかし、富山(に限らず日本海側全般かもしれない)に対して曇天、雪、陰湿、排他的などのネガティブなイメージも多くあるのではないかと思う。
そのネガティブなイメージは実際に正しいわけではない。まあ確かに曇り空は多いが、夏は暑いし冬にだって晴天のときはたくさんある。雪は降るけど、とんでもなく豪雪というわけではない(20-21年は異常だった)。陰湿や排他的というイメージも実際にそういうデータは存在しない。雨や雪が多いから性格も鬱々としてくるといった連想のようなものも大いにあるだろう。
ただ、田舎に実際に暮らしてみれば都会との違いに驚くことも多いはずだ。ムラ社会だったり、考え方が保守的だったりするのは、実際住んでいた私も認めるところだし、陰湿で排他的な人もいる。そういうことを身をもって体験できるのがP.A.WORKSの強みではないかと思うのだ。
『true tears』は全体的にどんよりとした空気感が伝わってくるし、眞一郎の母は保守的な田舎のステレオタイプな高齢者像そのままだった。デートはパボーレ(ショッピングモール)くらいしか行く場所がないほど、娯楽に乏しい。
『花咲くいろは』は理不尽な理由で湯涌温泉で働くことになり、最初は排他的な民子や保守的なスイに厳しくされながらも、健気に頑張る緒花に共感できた。
『Another』は原作が綾辻行人の本格ミステリーホラーなので単純には比較できないが、これもアニメ全体に漂う閉塞的な空気感が、田舎に存在していそうな奇妙な風習や因果を際立たせている。横溝正史らの例を出すまでもないが、因習や因縁は田舎を舞台にすることで妙なリアリティーが生まれる。
『白い砂のアクアトープ』2話で、飼育員になりたいと言った未経験の風花にくくるがペンギンの餌やりを指示したにもかかわらず、失敗したら風花に激怒するというエピソードがある。失敗して当然なのに激怒するくくるの行動にかなり違和感があるのだが、これが田舎を舞台にすれば、わざと辞めさせようとしてるんだなと思えてしまう。
もちろん田舎でも実際はそんなことはほぼ皆無だし都会にだってないわけないけど、「曇天ばかりの田舎」というイメージがそれを可能にしている。まあ田舎だから最初は仕方ないよねと。晴天の沖縄じゃただの性格悪いやつにしか見えないのだ。
P.A.WORKSはその田舎の空気感を描くのが一番上手いと思っている。なぜなら実際に田舎に住んでいるからだ。『サクラクエスト』は富山が舞台で田舎の町おこしというPAのテリトリーのような作品だったが、妙にコミカルでその良さが失われていると思う。
『SHIROBAKO』もヒットしたのは、描く側がアニメ業界を知り尽くした当事者だからというのも大きい。虚実織り交ぜているからというものあるが、内情をよく知っている人の描くフィクションは説得力がある。
P.A.WORKSは次は原作付きの『パリピ孔明』を手掛ける。PAの作画の平均値は高いし、原作付きの方が話題になりやすいので、良い原作に当たればすぐ復活するだろう。ただPAはやっぱりオリジナルアニメをやりたいんじゃないかと思う。オリジナルをやるなら、P.A.WORKSにしか描けないアニメをぜひ作って欲しい。