「ラジオどっとあい」は1999年から続く長寿声優ラジオ番組のひとつである。「ラジオどっとあい」は一部例外はあるものの、1クールごとにパーソナリティが交代するというシステムになっている。基本は、女性声優ひとりがパーソナリティに抜擢されることが多いが、過去には複数がパーソナリティを担当することもあった。
出演は新人、若手の女性声優に限られることから「新人声優の登竜門的番組」であると文化放送も自称している。「登竜門」を辞書で引くと「立身出世の関門」とあり、つまりは「ラジオどっとあいに出演できれば声優としての成功が約束される」とも受け取れる。
では、本当に「ラジオどっとあい」は新人声優の登竜門なのだろうか。調べてみたい。
調査方法
「ラジオどっとあい」には1999年7月期のパーソナリティである山本麻里安から、現在までに89人がパーソナリティを務めている。これらの声優に対して「ラジオどっとあい」に出演する2年前から放送後3年後までの、アニメの出演本数を調べた。もし「登竜門」が真実なんだったら、放送年の前後を挟んで出演数が増加している傾向が見られるはずだ。
出演本数はWikipediaを参照した。ただし、いくら本数が多くてもモブ役ばかりでは、声優として大成したとは言えまい。そこで、Wikipedia太字(いわゆるメインキャスト)の数も、同様の期間にわたってカウントした。Wikipediaの太字役の基準は曖昧なので、正確な調査ではないと言われるだろうが、他にいい指標もないので使わせてもらう。批判は甘んじて受けます。
なお、5代目パーソナリティの2人に関してはWikipediaのみならず、ネット上を探し回ったけれども全く情報がなかったので、データには含まれていない。したがって、合計87人の女性声優を調査したということになる。
2019年以降のパーソナリティに関しては、2021年以降の出演数が未確定なので、そこはデータには含んでいない。2020年までの出演数をデータに含んでいる。
パーソナリティの事務所傾向
出演本数を調べる前に、まずはパーソナリティの事務所傾向を調べておきたい。パーソナリティに抜擢された時点で所属していた事務所をカウントしている。(シグマ・セブンはシグマ・セブンeを含んでいる。)
圧倒的に多数なのはアイムエンタープライズで、16人もいて全体の18%を占める。2位もアーツビジョンで、やはり、日本ナレーション演技研究所出身の声優が多く起用されていることが分かる。
次に青二プロダクション、ミュージックレイン、81プロデュースと続く。青二や81は声優事務所の最大手なので、上位に入るのは当然だろう。ミュージックレインは近年かなり多く起用されていて、TrySailのメンバーは全員パーソナリティを経験済みだし、現在も3期生の橘美來がパーソナリティを務めている。
一方で、声優業界的には弱い事務所だから全く起用されないということもなく、意外と幅広くパーソナリティになっているところも見て取れる。
ラジオどっとあい前後のアニメ出演数推移
すべての声優に対して、全アニメの出演数をラジオどっとあい出演2年前から3年後までをカウントし、図示したグラフを示す。
これだけではなんのこっちゃさっぱり分からないので、平均値と中央値を取ってみる。
すると、明らかにパーソナリティ抜擢後から出演本数が増加していることが確認できる。出演2年前は平均2.30本(50%以上の人は1本以下)だったものが、出演年には平均7.16本となり、その出演数は、半数以上の声優において、3年後まで持続していることが分かる。新人声優が抜擢される例が多いのだから、担当2年前は少なくて当たり前とも言えるのだが、増加した出演数が3年後も持続しているというのは、やはり声優としての成功ロードを感じさせる。
次にメインキャストの出演数の推移を見てみる。
こちらはパッと見で、パーソナリティを担当した年以降からメインキャストの出演数が多くなっていることが読み取れる。同様に、平均値と中央値を取ってみる。
ラジオどっとあい出演の1年前までは半数以上の声優がメインキャストを1本も務めていないのに対して、出演後はおよそ半数が3年後まで2本以上のメインキャストを演じていることが分かる。
顕著な例では、能登麻美子(15代目)、平野綾(25代目)、喜多村英梨(29代目)、内田真礼(51代目)、雨宮天(58代目)、小原好美(71代目)などが挙げられるだろうか。いずれの声優も「ラジオどっとあい」担当年以前は、ほとんどメインキャストを演じていなかったにもかかわらず、担当年の後にメインキャスト出演数が急増している。挙げた声優以外にも同様の例は多数見られる。
3年後より後の声優キャリアについて
半数以上の声優は成功しているとは判明したものの、ここまで示したデータからは逆に言えば、残りの半数の声優は「ラジオどっとあい」に出演したからと言って、特に声優として成功していないとも言えてしまう。しかし、実際はそうでもない。
例えば、2006年7月期に担当した明坂聡美(27代目)は、担当3年後のメインキャスト出演数が0本だが、その後『探偵オペラミルキィホームズ』のアルセーヌ役や『BanG Dream!』の白金燐子役(現在は交代)などで存在感のある声優になっているし、内田彩(43代目)は出演1年後までのメインキャストが1本のみだったが、出演3年後には『ラブライブ!』が大ブレイクして、その後、現在の声優業界には欠かせない人材になっている。
また「ラジオどっとあい」パーソナリティ経験者には、女性声優の憧れとも言うべきプリキュア声優が極めて多い。名前を列挙すれば、日高里菜(47代目)、瀬戸麻沙美(46代目)、花守ゆみり(62代目)、河野ひより(79代目)、小原好美(71代目)、田村ゆかり(4代目)、藤田咲(30代目)、早見沙織(36代目)、堀江由衣(4代目)、釘宮理恵(13代目)、寿美菜子(42代目)、水沢史絵(26代目)、喜多村英梨(29代目)がプリキュア声優になっている。プリキュア声優全体の2割弱が、「ラジオどっとあい」のパーソナリティ経験者である。
また、プリキュア声優にならなくとも、プリキュアに関わる声優も存在する。駒形友梨(53代目)は『キラキラ☆プリキュアアラモード』の主題歌に参加しているし、アーティストデビューも果たしている。ほかにも、主要キャラクターとして出演した声優もいる。
もちろんパーソナリティになっても声優としては活躍することなく、引退した人も存在するのだが、全体的に見れば、やはり「ラジオどっとあい」は声優の登竜門的番組だというのは真実としてもよさそうだ。
「ラジオどっとあい」パーソナリティが大成するのはなぜか
では、なぜ「ラジオどっとあい」パーソナリティは声優として成功する確率が高いのだろうか。「ラジオどっとあい」に出演した声優がアニメスタッフの目に留まって、というのが綺麗なストーリーではあるが、実際はそうではないと思う。
「ラジオどっとあい」パーソナリティがきっかけでアニメの仕事が増えるのであれば、出演後1、2年後から増え始めないとおかしいが、実際は出演年から増加の傾向が見られる。したがって、事務所がこれからプッシュする声優を「ラジオどっとあい」パーソナリティに任命しているというのが実情ではないかと思われる。もちろん、ひとりしゃべりというスキルが必要な番組なので、抜擢される声優は才能が元々あるのだと思うし、それを経験した声優が後々重宝されるというのもあるだろう。
似たようなひとりしゃべり番組では、『A&G NEXT GENERATION Lady Go!!』や、その姉妹番組『A&G NEXT BREAKS FIVE STARS』、その後継番組で、現在放送中の『A&G NEXT ICON 超!CUE&A』などがある。これらのパーソナリティも現在第一線で活躍する声優が顔を揃えている。こちらは分かりやすく、NEXT GENERATIONなどと名前がついているので、出演した時点で声優での成功はほぼ約束されていると考えてもいいのではないか。
まとめ
「ラジオどっとあい」は、間違いなく女性声優の登竜門的番組だった。半数以上のパーソナリティ経験者が、3年後までアニメの仕事が充実している。その後も、プリキュア声優に抜擢されるなど、活躍が目立つ。声優ファンは「ラジオどっとあい」を始め、新人声優のひとりしゃべり番組をチェックしておけば、女性声優の流行についていけそうだ。