記事のご依頼がありました。いつもありがとうございます。
1つ疑問に思ったことがあって、気が向いたら検証していただきたいのですが、麻倉ももさんの楽曲は恋愛曲ばかりのような気がしています。これって異常じゃないんですかね?調べて欲しいです。
やる気自体はこのメッセージを受け取った瞬間からあったのですが、色々あって投稿が4ヶ月後になってしまいました。依頼してくださった方には大変申し訳なかったです。
確かに思い浮かべてみると、麻倉もものソロ曲は恋愛ソングが多いような印象がある。そこで実際に女性声優18人の全楽曲を調べて、恋愛ソングの割合を導出してみた。
調査方法
調べた声優は、麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜、戸松遥、豊崎愛生、高垣彩陽、寿美菜子、小倉唯、内田真礼、水瀬いのり、悠木碧、竹達彩奈、早見沙織、大橋彩香、三森すずこ、上坂すみれ、田所あずさ、小松未可子の18人である。選考基準は、とりあえず比較のためにミュージックレインの全員を選び、そのあと楽曲数が50前後の歌手活動をしている声優を選んだ。楽曲とその歌詞はすべて歌ネットに掲載されているものを使用した。
しかし、恋愛ソングかどうかの判定は難しい。例えば愛について歌っていたり、「君に会いたい」などという歌詞があったとしても、愛は家族愛や隣人愛などもあるし、「君」というのは彼氏彼女を指しているとは限らない。
実際に調べてみると、ガチガチの恋愛ソングというよりも、恋愛ソングとしても受け取れるくらいのものが多かったように思う。そこで、歌詞全体や曲の雰囲気から私が独断で恋愛ソングかどうかを判定した。したがって、具体的な曲数は他の人が調べると異なる値になるだろう。あくまで傾向として読んでほしい。
女性声優別の恋愛ソング割合
声優名………割合(恋愛曲数/全曲数)
麻倉もも……66.7%(14/21)
小倉唯………55.6%(25/45)
大橋彩香……47.4%(18/38)
内田真礼……46.8%(22/47)
水瀬いのり…40.0%(20/50)
三森すずこ…37.7%(20/53)
豊崎愛生……37.3%(22/59)
竹達彩奈……36.7%(18/49)
早見沙織……35.5%(11/31)
戸松遥………34.4%(22/64)
高垣彩陽……34.4%(22/64)
上坂すみれ…30.6%(15/49)
悠木碧………25.6%(11/43)
小松未可子…24.7%(18/73)
田所あずさ…23.8%(15/63)
夏川椎菜……16.7%(3/18)
寿美菜子……15.9%(7/44)
雨宮天………3.6%(1/28)
全体の平均は33.8%となった。平均的に見れば、声優の楽曲のうち約3割が恋愛ソングだということが分かる。アルバムで6曲収録されていたら約2曲が恋愛ソングとを考えると、大体そんなもんかなと思う。またタイアップが多い声優は、タイアップ先によって恋愛ソングが必然的に多くなってしまう。
そして依頼してくださった方の印象通りに、麻倉ももの恋愛ソング割合が最も多くなった。次に恋愛ソングが多い声優は小倉唯、大橋彩香と続いている。一方で、同じTrySailの雨宮天は恋愛曲が最も少なくなった。彼女はアイドル声優ではないと自ら宣言している通り、楽曲もクールな楽曲が多いためだと考えられる。ではなぜ麻倉ももは恋愛曲が多いのか。
※ Twitterで麻倉ももさんは自ら恋の歌を歌いたいと言っていたという指摘を受けました。それは事実です(インタビュー記事)。ただ、そういう事実以上のものを考察するのが、こういう記事の役割だと思うので、このあとの話を展開させています。あくまで自論という前提で閲覧してください。
楽曲と声優のキャラクター
麻倉ももはアイドル声優であることは疑いようがないと思う。アニメ出演数など古典的声優仕事量に比べると、人気がかなり高い。それはアイドル人気と言っても差し支えないはずだ。
アイドルはそうであると直接的に明言することはないが、ファンに疑似恋愛を体験させる存在である。私もそのひとりかもしれないが、麻倉もものファンにはガチ恋が多い。したがって、あたかも彼女が自分のことを好きだよと囁いてくれているような曲が多くなるのだろう。
例えば、ソロデビュー曲の「明日は君と」は次のように始まる。
初めてだよ
胸を叩く君は今も目の前にいるのに
いつかいつか
名前も知らない君に届くまで
「目の前にいる」「名前も知らない君」と不特定多数が自分のことだと受け取れるような歌詞になっている。そして「初めてだよ」と純潔さもアピールしている。麻倉ももはこのような雰囲気の歌詞の曲がとても多い。Honeyworksからの提供が多いというのも関係しているだろう。
楽曲は声優のキャラクターを反映する。小倉唯もアイドル声優のひとりであるから、恋愛ソングが多くなっている。人気曲のひとつの「Honey♥Come!!」も構図がよく似ている。
はにかむけど一緒にハッピー
Honey♥Come!! かなえてみたい
私推しのキミが大事 笑顔にさせてあげたい
届け 純粋なマニフェスト ハ・ニ・カ・ム
大橋彩香に関しては、恋愛している自分の気持ちに葛藤したり恋に敗れたりする歌詞が多い。例えば「バカだなぁ」という曲は次のように終わる。
君に甘えてばっかで わがままで困らせてばかりの
私は本当に バカだなぁ バカだなぁ
ひとりぼっちの明日なんて どんな顔して笑えばいいんだろう?
ねぇ 好きだよ 好きだよ 好きだよ
ここで恋愛している相手はファンではない。だけど恋する女性は可愛くみえるので、楽曲で彼女の可愛らしさをアピールしている。大橋彩香の守ってあげたくなるような雰囲気も、楽曲でさらに増幅させている。
また同じ声優であっても、時間経過によって歌う曲は変わってくる。例えば三森すずこは、デビュー直後は「会いたいよ…会いたいよ!」「約束してよ?一緒だよ!」「私…見守ってるよ!」と半分ヤンデレかと思うようなタイトルの曲を連発していたが、最近は恋愛ソングは控えめで、女性の日常などをテーマにした楽曲が増えている。まあそれも当然で、結婚したのに「会いたいよ会いたいよ」なんて歌われても、どんな顔していいか分からなくなる。
早見沙織や高垣彩陽については、自身の恋愛というよりも、概念としての愛についてや大人の恋愛の歌もある。高垣彩陽の「愛の陽」を例に挙げる。
人間は 愛で生まれ
愛ゆえに 闇にも触れた
何度でも夜は明けるんだと
繰りかえされる歌だけど それは真実
なお高垣彩陽の場合はカバー曲やオペラが多いので、恋愛ソング割合は少し水増しされている。
恋愛ソングと一概に言っても、中身は色々あってしっとりとした大人の恋愛を歌い上げる声優もいれば、無邪気な初恋を歌ったり、失恋を歌ったりする声優もいる。そこで、おまけと言ってはなんだけど、今回取り上げた声優の面白い恋愛ソングをいくつか紹介する。
声優のオススメ恋愛ソング
上坂すみれ「冥界通信〜慕情編〜」
墓石湿しましょ 手向け水
花束供えましょ 位牌堂
あなた 永遠にお慕いします
あなた 時に終わりはないわ
闇の果てで お待ちします
Aメロは和風のしっとりとした雰囲気で始まり、サビでアップテンポとなる聴いてて楽しいこの楽曲の歌詞は衝撃的。彼岸から此岸にいる相手への想いを歌っている。墓や位牌など恋愛ソングに似つかわしくないようなワードを散りばめ、逆説的に想いの強さを表現している。Amazon musicで視聴可能(アフィなし)。
悠木碧「ハツジョウジカケラブゲーム」
言葉だけじゃ分かんない
胸に眠るチェリーボム
オモチャだけじゃ足りてない?
妄想ハリケーン
撫でて 噛んで よじって
甘く 身体 溶かして
ムクムク膨らんだ無垢な夢 抱いて
カンカン ガクガク 腰砕けた
そんな愛のカ・タ・チ
楽曲全編に渡って、ほとんどアレを連想させる直截的な歌詞が展開されている。このような官能的な歌詞は、メジャーにいる女性歌手を見てもほとんどない。これを悠木碧の可愛らしい声でアップテンポで歌っているところが、アンバランスで逆に良い。
早見沙織「レンダン」
言葉などいらないの
街灯に照らされて
貴方のもと続く落葉樹
たとえこの真夜中が
泡沫の刹那でも
行き先までとうに委ねたわ
貴方の手で全てを暴いて
情熱的な歌詞と言えば早見沙織の「レンダン」も捨てがたい。こちらはしっとりした艶かしい大人の恋愛を、早見沙織の高い歌唱力で歌い上げている。レンダンは連弾の意味だろうが、レンは恋とも掛けているのだろう。Amazon musicで視聴可能(アフィなし)。
小松未可子「in the suite」
「in the suite」は声優に楽曲では珍しい組曲になっている。「endless night」「walking in the dark」「怪獣」「I see world」の4曲から構成されて、17分間で1曲になっている。ライブではうち1曲を歌うこともある。楽曲制作時は輪廻転生をイメージして作成したらしく、壮大な楽曲になっている。Amazon musicで視聴可能(アフィなし)。